ここでは、国内および国際的なパートナーのグループが携わる装備品システム等の開発プログラムにおいて、プロジェクト全体のデータ戦略と標準を確立するために理想的なタイミングとその理由を解説します。
開発コストおよびスケジュールを管理するには、共通のデータ標準が必要
Tier1レベルの、おそらく様々な国の複数企業との連携が必要な開発プログラムでは、えてして統合フェーズにおいて重大な問題に直面します。共通のデータ標準がない場合、設計・開発・製造はより複雑で高額かつ長期的となり、コミュニケーションの齟齬から間違いが発生しやすくなります。設計・開発コストおよびスケジュールを効果的に管理するには、共通のデータ標準を開発プログラムの最初に決める必要があります。
複雑で各社毎に異なるサポート態勢は独自のデータ標準とシステムを有し、無駄な重複、非効率性、コストを生じさせています
可用性(可動率)も低く、コストも高額になっています
同様のロジックが、ライフサイクルを通したサポートにも当てはまります。多数のOEM、サプライヤー、および将来のMRO事業者が世界中に点在し、複数の異なる、変化するサポートチェーンがそれぞれ独自のデータ標準とデータシステムを持っているため、膨大な量の無駄や重複によるコスト増加を生じさせるとともに効率を低下させ、結果的に低い可動率で、高コストなものになってしまいます。
その為、プロダクトのライフサイクルを通して、高額なサポートコストが発生
既存システム(装備品)の保守に割当てられる防衛予算の割合が増加し、新しいプログラム(新装備品の開発または調達)に投資する予算は減少
従来、欧米の開発プログラムでは、機器等の設計者は初期にライフサイクルを通したサポートに関する問題を定量的に十分な検討をしてこなかったため、ライフサイクルサポートコストは結果的に高額なものになっていました。既存システム(装備品)の維持に関する防衛予算の割合は着実に増加し、新しいプログラム/システム開発に投資できる予算を圧迫しています。防衛力を経済性を保って長期的に持続出来るためには、共通のデータ標準を用いたライフサイクルを通したデータ管理・標準が不可欠です。
防衛力の長期的な持続性(sustainability)と経済性(affordability)のためには、 プロダクト・ライフサイクルを通じたデータ管理が不可欠
ヨーロッパには、航空機、エンジン、アビオニクスおよび兵器の開発製造を、多国間ジョイントプログラムとして実施してきた、長い経験があります。イギリスとフランスによるジャガー、イギリス、ドイツ、イタリアによる多用途戦闘機のトルーネード、そして、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインによるユーロファイター タイフーンなどです。多国間による協力で各国はそうした開発プログラムの費用を抑えることができましたが、実際にはプログラムの期間が延び、総費用は大幅に増加した経験をしています。
多国間協力で各国のコストは抑制されたが、総コストと期間は増加
設計データの標準化は認識されましが、サポート活動への配慮はなされませんでした。初めから全てのパートナーに課すべき、または合意されたプロジェクトのデータ戦略が不可欠でした。ユーロファイター タイフーンの全てのサプライヤーは設計時のコスト分析や修理レベル分析においてTFDのEDCASソフトウェアを使用することが義務付けられました。しかし、25年前は包括的なデータソリューションは存在していませんでした。現在では、PLCSやASD S-Seriesの登場により、プロダクトサポート活動のための共通のデータ標準を採用することが可能になりました。
共通のデータ標準は不可欠ですが、それだけでも不十分です。データ戦略には、ライフサイクルを通したプロダクトサポートの要件を組み込む必要があります。全てのパートナーが初期段階から使用する統一的なプロジェクトデータ戦略が不可欠です。主なグローバルスタンダードとしては、PAS 280 (Through-Life Engineering Services - Adding Business Value through a Common Framework)およびISO 10303 (PLCS)が現在利用可能です。
ISO 55000 および BSI PAS 280: 2018 (Through-life Engineering Services – Adding Business Value through a Common Framework)が現在利用可能です
スタンダードには、管理標準とデータ標準があり、それぞれ階層的に作られています。最初は分かりにくいかもしれません。どのように構成されているかを説明します。
下部の、ISO 10303-239、PLCS(プロダクト・ライフサイクル・サポート)は、複雑なアセットのライフサイクルを支援するデータ交換標準です。データの扱い方は管理標準で定義されます。
上部には、ISO 55000があります。これは、英国規格協会(BSI)の公開規格(PAS)、PAS 55として始まりました。物理的アセット管理の必要性が説明され、概要、原則、用語、要件の概観、ガイダンスおよび期待されるメリットが含まれます。しかし、PAS 55では管理方法は定義されていません。この不足点は新しいPAS 280で補われています。
- 管理標準
- ISO 55000 (旧PAS 55) ― 物理的アセットの管理に関する概要、原則、用語、要件、ガイダンスおよび期待されるメリット
- PAS 280 ― 主要アセットの価値とコストを最適化し、より良好に長期的且つ経済的に運用できるように、主要アセットに適用される一連の機能、技術、ビジネス思考およびネットワーク動作
- データ標準
- ASD S-Series ― 統合ロジスティクスサポートの様々な側面に関連する仕様
- PLCS (プロダクト・ライフサイクル・サポート) ―複雑なアセットのライフサイクルを支援するデータ交換標準。サブセットのISO 10303-239は、特定のビジネスプロセスに必要なデータフローをサポート
プロジェクトデータ戦略は、設計・開発・製造費を抑え、要求されるシステム可動率を、費用対効果の高い後方支援態勢下でもたらせるように、装備品のライフサイクル全体を通じて、下から上までのすべての管理体制の中で、標準化された共通データが活用できるものである。
【PDF白書のダウンロード】プロダクトライフサイクルサポートのためのデータ戦略と国際標準