筆者:横山康彦

 空港のセキュリティは、滑走路のような広大なエリアへの不法侵入防止対策として、外周全体にフェンス等を設置することや、不特定多数の人が出入りする旅客ターミナルビル内に搭乗前の乗組員や旅客等の危険物所持を制限する保安区域(クリーンエリア)を設置し、そこへの入口で保安検査を確実に実施することなどにより確保しています。

 こうした空港のセキュリティ確保のために設置しているフェンスや保安検査等について、これまでに発生した問題の分析や検討結果に基づく強化対策等を2回に分けて紹介します。

 今回は、空港のセキュリティ強化が議論されてきた背景や強化策等について示すとともに、広大な空港の区域分けおよび、この広大な区域の物理的な対策の強化策等について紹介してみたいと思います。また、今年3月から施行された改正航空法により保安検査が義務化されましたが、次回はその背景として、令和2年頃から始まった「保安検査に関する有識者会議」によって議論されてきた内容等についても紹介したいと思います。

空港のセキュリティ(航空保安対策)強化が求められる背景と強化策

 2001年9月11日に発生した米国の同時多発テロ以降も、航空機や空港を標的としたテロや大規模イベントをめぐるテロは相次いでおり、国際的なテロ情勢は依然非常に厳しい状況が続いています。また、それに対抗するため、航空保安対策の強化についても逐次実施されてきました。

(国土交通省航空局 航空保安対策の推進資料より抜粋)

 また、国内においては「テロに強い空港」を目指し、2020オリパラを成功裏に導くため先進的な保安検査機器の導入を推進し、航空保安検査の高度化を図るとともに、これらの検査機器をより一層活用できるルールの設定など、航空保安検査の強化を行ってきました。

(国土交通省航空局 第3回保安検査に関する有識者会議 資料3より抜粋)

空港のセキュリティ確保に係る区域設定について

 広大な空港のセキュリティ確保に係る区域設定は以下に示す8種類に分類され、区域毎にそのセキュリティを確保すべき責任主体等が決められています。

  1. 制限区域:滑走路、エプロン、管制塔、格納庫その他空港事務所長が標示する区域
  2. 保安区域:制限区域の中にあって、特に危険物等所持制限をうける区域で危険物等の所持を制限するための保安検査により健全性が確保された区域
  3. 一般区域:旅客ターミナルビル内にあって、セキュリティ的に健全性が確保されていない区域
  4. 航空貨物ターミナル:航空貨物全般の荷揚げ/荷降ろし・検査等を行う区域
  5. PBB(バスゲート):航空機への搭乗/降機時に使用される可動橋及びバスゲート
  6. 航空機内:航空機の内部
  7. 航空機の機側:航空機の機外で機体に隣接する周辺部分
  8. SRA :制限区域及び制限区域に接する区域のうち重点的に保安対策を講じる区域として空港の設置管理者等が設定する区域

(国土交通省航空局 第8回保安検査に関する有識者会議 資料3より抜粋)

広大な制限区域のセキュリティ確保について

 前項で示した制限区域ですが、空港管理規則第5条では、滑走路その他の離発着区域、誘導路、エプロン、管制塔、格納庫その他空港事務所長が標示するエリアを制限区域として設置し、空港事務所長の承認を受けた者(工事業者等)や航空機乗組員および旅客以外の人や車両の出入りは厳しく制限されています。さらに、制限区域のうち特に航空機の航行の安全に直接影響を及ぼす離着陸帯、誘導路、エプロンまたは格納庫については、航空法第53条において、何人もみだりに立ち入ってはならない旨規定し、同法第150条において規定に違反して立ち入った者に対して50万円以下の罰金が科せられることとされています。

 このように法的には厳しく制限された制限区域を含む空港ですが、航空機の離発着に必要な滑走路は長大であり、羽田空港を例にとると、その面積は東京の千代田区に匹敵し、その外周総延長は38kmにもなっています。この広大な空港のセキュリティを確保するための警備には重層的な対策が必要であり、空港周辺をフェンスで囲い、人や車両などが外部から空港の構内に物理的に侵入できないようにするとともに、警備員による巡回警備、監視カメラや侵入センサーにより監視等を行っています。

 各空港では、上記の基本的な考え方のもと警備を行っていましたが、平成18年4月以降、神戸空港における車両侵入事案をはじめ、羽田空港、宮崎空港においては人が侵入するなど、制限区域内への不法侵入が多発してしまいました。これら不法侵入はいずれも早い段階で発見され、警備員による迅速な捕捉や運航中の航空機の待機など適切に対応できたため、幸いにも大事には至りませんでしたが、空港への不法侵入対策の抜本的な強化が求められることとなりました。

(国際交通安全学会誌Vol.32 No2空港の危機管理より抜粋)

 こうした状況を分析した結果、車両侵入については速やかに捕捉することは困難であり、その機動性から航空機の安全運航に直接影響を与える恐れが高いため、水際での物理的な阻止が必要とされました。また、人の侵入については、警備員による迅速な捕捉が比較的容易であり、人単体では航空機の安全運航に直接影響を及ぼす可能性は比較的低いため、車両と人の侵入についてはそれぞれ別個の対策が必要とされました。

 これらの方針のもとに、具体的な不法侵入対策の強化策を検討した結果、

  1. 車両侵入については、物理的な侵入抑止に重点を置き、道路・駐車場・空地脇など侵入が想定される箇所へのガードレール・杭等車両侵入抑止措置装置の設置・拡充
  2. 人の侵入については、人がよじ登ることを困難にすべくフェンスの強化(メッシュ化)に加え、事後的な対応に重点を置き、万一侵入があった場合にも侵入者の迅速な発見・捕捉ができるよう、センサーの設置・拡充

を実施していくことが適当であるとされました。

 特に、人の侵入対策として警備員による巡回の強化はマンパワーやコスト面等での限界があるため、センサー(必要に応じて監視カメラ)の拡充に重点を置くこととし、海域や山に面した部分等人の侵入が想定困難な場所を除き、原則空港全周に設置することが適当であるとされました。

(国際交通安全学会誌Vol.32 No2空港の危機管理より抜粋)
(国際交通安全学会誌Vol.32 No2空港の危機管理より抜粋)

 続いて、その背景として、国土交通省航空局が令和2年頃から始めた「保安検査に関する有識者会議」によって議論してきた内容を中心に記述します。また、後半では航空貨物のセキュリティ確保の状況についてもあわせて紹介したいと思います。

旅客ターミナルビルの保安検査について

 保安検査に関する課題については、令和2年6月から開始された「保安検査に関する有識者会議」において、位置付け、役割分担、量的・質的向上について検討が行われ、各々の対策や強化により、徐々に成果が出てきています。

(国土交通省航空局 第3回保安検査に関する有識者会議 資料3より抜粋)

 以下、抜粋資料を補足していきます。

① 保安検査の位置付け

 航空保安対策に関する諸課題に対応すべく航空法の一部が改正され、危害行為防止基本方針が改正航空法に基づき策定されることとなり、搭乗旅客に対する保安検査の実施が義務づけられることになりました(具体的な航空保安に関する改正内容は以下参照)。

 改正航空法の施行期日は令和4年3月10日となっており、この日以降、保安検査は法的に義務化され、違反者には罰則も設けられています。

(国土交通省航空局 第6回保安検査に関する有識者会議 資料3より抜粋)

② 関係者の役割分担・連携強化

 検査の確実な実施や事業への迅速な対応のため、複数の関係者による連携強化や国のリーダーシップ強化が急務です。

 実施に当たっては、危害行為防止基本方針に基づき国が実施すべき施策や関係者が講ずべき措置を具体化した上で、国や関係者の連携協力確保、保安検査等の実施体制強化・検査能力向上等を継続的に図ることが重要とされています。

(国土交通省航空局 第6回保安検査に関する有識者会議 資料3より抜粋)

③ 保安検査の量的・質的向上策

 保安検査の課題としては、離職率の高い検査員人材の確保、育成や今後の航空需要の増大に対応した検査の高度化など、保安検査の現場における量的・質的向上が挙げられます。検査業務の受託に係る基準の策定や、国による検査会社への指導・監督強化も同様でしょう。また、更なる先進機器の導入や検査員の労働環境の改善も必要となります。

航空貨物の保安対策について

① 航空貨物のKS/RA制度運用の背景と改定状況

 航空貨物のKS/RA制度(Known Shipper(特定荷主)/Regulated Agent(特定航空貨物利用運送事業者等)制度)は、国際民間航空機関(ICAO)が定める国際基準等に基づいて策定されています。この制度は、航空貨物のセキュリティレベルを維持し物流の円滑化を図るため、荷主から航空機搭載まで一貫して航空貨物を保護することを目的として、2005年10月から運用が開始されています。

 2012年(平成24年)12月からは、新KS/RA制度として米国向け旅客便の航空貨物への爆発物検査が義務化され、2014年4月からは全ての国際旅客便に適用されています。

② 新KS/RA制度の概要

 新KS/RA制度は、2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ対策として制定された9.11委員会勧告実施法の施行により、米国内での航空貨物に対して、爆発物検査が100%要求されることを契機として新たに策定された制度です。その概要を以下に示します。

(内閣府 第6回貿易・投資等ワーキング・グループ資料1-2より抜粋)

 保安検査については、改正航空法や危害行為防止基本方針等に明文化されたことにより、法律的な義務付けが明確となり、検査のモチベーション向上が図られつつあります。ただ、検査機器の高性能化による検査時間の短縮等が期待される一方で、検査員の離職率の高さをいかに改善できるか。検査員の確保や育成方策等が今後の課題と思われます。

 また、航空貨物のセキュリティ対策は、爆発物検査の100%実施体制は整備されているものの、対応する業者や航空会社等の費用負担や検査人材の育成教育等について、体制を維持する上での重要な課題として継続した検討が必要と思われます。

<参考文献等>

  1. 危害行為防止基本方針      国交省            R4.3.10
  2. 空港の危機管理         国際交通安全学会誌Vol32,No2 H19.7
  3. 保安検査に関する有識者会議   第1~8回議事録 航空局   R2.6-4.6        
  4. 航空保安対策の推進       航空局HP

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